「おめでとうございます、ブラックホールが当たりました」 「ブラックホールを通ればかなり若返りますよ」 わ、すごいの当たっちゃったよ、と思った。 しかし帰って来たらものすごく若返っているとかならまあいいか、と、 ブラックホールにためしに行ってみることにした。 とはいえ私の周りにはさすがにブラックホールに行った人はいないのでどのくらいの若返りをするのかもわからない。うっ かり自分だけ若くて子供がジジイとかになっていたら大変だ。とはいえ、せっかくの当選なんだし使わないのももったいないよ なと。若干ウキウキしながらもひとまず、ブラックホールは後にして暑くなってきたし、久しぶりに軽井沢に行くことにした。 軽井沢といってもいつも夏に行くところは北軽井沢の大学村という大江健三郎とか芥川也寸志みたいな決して浮かれない静かな人々が 昔から住んでいる別荘地というより文豪の執筆場所みたいな雰囲気のところで静かに過ごさなくてはならない。 やることは散歩ぐらいしかない。 崖が多く道もきちんと舗装されているところが少なく人も少ない。たぬきの集団や うっかりすれば熊も普通にいる。静かすぎるのも若干怖い。木にとまるフクロウと目が合ったのも生まれてはじめてだった。何よりも危険を感じるのは風呂が五右衛門てことだ。そう、素っ裸で熊が茂みから出てくるようなところで星空を眺めろというのも落ち着かない。
と、今日は五右衛門風呂はやめておこう、とかいろいろ考えているうちに到着した。

さっそく散歩していると前方から歩いてくる人影がある。一人で歩いてくる。ちょっと大きい人みたいだ。まあ ジロジロ見ないで普通に歩いて行こう。と、3mくらい先くらいまできたとき、ハ!とした。なんとその人は宇宙服を着てい る。まあコロナだし全身防護服なのかもしれないよな、と会釈したら、女性だった。一人だし挨拶くらいしよう、と「こんにちは。」 というと「あら、あなたも宇宙服!偶然ね」と。え?私もか?と自分をみると、月面歩行のようなガッツリとした宇宙服を着てい る、顔も丸いアクリルみたいな球体ヘルメットを被っている。あまりに自然すぎて気づかなかったくらい普通に着ていた。 「ここでは暇でしょうがないですねえ」と女性。なるほど、この人は作家とかそういうわけではなく過ごしているのだな、、 と。なので「どのくらいいらっしゃるんですか?」と聞けば、「さあ、、もうどのくらいになるかわかりませんがずっとここに いますよ、いつ戻れるんでしょうねぇ」と、他人事のような受け答えだ。さらに「ちょうど春でよかったですけど、ずっと冬の人とか 困るでしょうねえ」。まあ確かにずっと冬に北軽井沢なんかいたら薪がなくなってしまう。寒いだろうなあ。と想像をする。すると女性が「宇宙ってあまり変わらないですねえ」と。あれ。ボケちゃっているのかな。いや、SF作家か。ああならブラックホールも知っているか な?と。「ああ、宇宙にいったことあるんですか?私もブラックホールが当たったのでどうしようか迷ってたんですよ。けっこう若返るって聞いたんですが」と聞けば「若返るもなにも、あなた、ずっとこのままで同じところを歩いているのよ、3mくら いは進んだかしら。」と。そういえば私もずっと同じところを歩いているような気がする。 そろそろ東京に戻らないといけない。ああそうだ、私は猫を飼っていたしそのままにしてしまってきた。 と家に帰ろうにも歩いている自分から戻れない。そしてほとんど進んでいない。歩いているのに。全く進んでいない。「わたし もちっとも進みませんよ」と言えば、「そりゃそうよ、ここは宇宙だもの」と。またボケたこと言う。 困ったなあ。とにかく早く歩いてさっさと帰ろう。と足を動かしているつもりが地を蹴っている感じがしない。あれこれじゃム ーンウォークだよな。いつのまにできるようになったんだ? 地を蹴るんだ。地を・・・!!と必死になった。
という夢を見た。
気付いたら宇宙にいてそこは宇宙空間とした場所ではなくよく知った場所が永遠続くところであった。 観念が世界ならば実際宇宙とはそんなものかもしれない。若返るとか下劣な自分の願望が一番上の脳の層にあってそんなものに ひっかかっているってなんだかな、と。 反省。 けっこう暖かくなったのに冬布団のまま朝を迎えたのがいけなかった。
さらに新入りの猫が足の上に乗って寝ていた、こいつのせいだぞ。と。
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